★ 3姉妹怪盗団参上! 河童の宝玉を取り返せ! ★
<オープニング>

 月だけが街を照らす夜、3っつの影が高層ビルの上から、1つの大きな屋敷を見下ろしていた。
「あれが今度のターゲットです」
 腰まで伸びている金色のロングヘアーを靡かせ、3人の中でリーダーと思われる女性は隣に立つ、2人の女性に話しかける。
「レーねぇ。今回、何を取り返すんだっけ?」
「もう! ライムお姉ちゃん、しっかりして!」
 軽く言い合っている姉妹を、姉は笑いながら宥める。3人の少女達は、怪盗アクション物映画『怪盗活劇 影の天使達』から現れた3姉妹である。
「ほらほら、ライムちゃんも、ミカンちゃんも、お姉ちゃんが話すからケンカしないの」
 長女のレモンは、次女のライム、三女のミカンを宥めながら、仕事の詳細を話す。
「今、見ている屋敷に、カッパさんの大切な宝玉があるから、それを取り返して欲しいの。分かった?」
「思い出したよ。レーねぇ! 今度も頑張るから!」
 青い短髪を振りながら、ライムは拳を握って、シャドーボクシングを始め、自分に気合いを入れる。
「程々にしてよね。ライムお姉ちゃん、仕事よりも暴れるのを優先するんだから……」
 肩まで伸びたピンク色の髪を揺らしながら、ミカンはライムを見て溜息を吐く、レモンは笑いながら、2人の肩を叩き、ターゲットである屋敷を指さす。
「ライムちゃんも、ミカンちゃんもそこまで。今度も頑張るわよ、カッパさんの為にもね」
「ハイ!」
 2人はレモンに気合の入った返事をして、3人並んで屋敷を見下ろした。決意と熱意を胸に秘めて。



 高級そうな家具が並ぶリビングで、植村は屋敷の主から、一枚の予告状を渡され、彼は手に取って、じっくりと見る。
「それで大場さん。今回の依頼は彼女達から、その宝玉を守るのでいいんですか?」
 大場は黙って首を横に振り、指を鳴らす。ドアが開き、召使が宝玉の入ったガラスのケースを持って現れる。
「これは確か……『河童の大富豪大作戦』に出ていた宝玉ですよね? 彼らも実体化したんですか?」
「ああ。今は皆で水道屋をやっている」
「宝玉は彼らに取って、掛け替えの無い物です。何であなたが持っているんですか?」
 植村に聞かれ、大場は経緯を話し出す。実体化してから河童たちは仕事に追われる毎日で、宝玉を管理する暇が無かった。日に日に輝きを失う宝玉を見られず、彼らは話し合い、財政家でムービースターに理解のある大場に、宝玉を一時、預ける事にした。
「なら、何で狙われたりするんですか?」
「河童の中には、宝玉が離れ、号泣するのも居たからな。多分、それを見て……」
「分かりました。彼女達の誤解を解く、それをお願いしたいんですね?」
「違うんだ! 待ってくれ!」
 大場は自分で立ち上がり部屋から出る。戻ってくると、手には怪盗活劇シリーズのパンフレット、フィギュアなどの関連商品が持たれていて、テーブルの上に置き、彼は目を輝かせて話し出す。
「私は、この映画の大ファンで、あの3姉妹に狙ってもらえるなんて、光栄なんだ! ただ勘違いだったと話すのは簡単だ。しかし、それでは予告状まで渡してくれた彼女たちのプライドを傷付ける。だから……」
「抵抗する振りをして、気持ち良く、宝玉を盗ませると言う訳ですね?」
 若干、呆れ気味に聞く植村に、大場は何度も首を縦に振った。
「分かりました。私の方で呼びかけてみますので……」
「これを持って行ってくれ! 彼女達の魅力を紹介してくれる、公式資料集だ!」
 そそくさと出て行こうとする植村の手に、大場は無理やり資料集を握らせ、何回も手を振って、彼を見送る。
(フフフ……男ってバカよね)
 その様子を全身黒で覆った女性が、物陰から見て、含み笑いを浮かべていた。本物の泥棒に狙われている事にも気付かず、大場はビデオで彼女達の勇姿を見て興奮し、植村は溜息を吐きながら、資料集をパラパラとめくり、対策課に戻ろうとしていた。

種別名シナリオ 管理番号587
クリエイター天海月斗(wtnc2007)
クリエイターコメント勘違いから、狙われた大場ですが、彼はこの状況を楽しんでいます。彼の為にも、3姉妹の為にも、上手く抵抗をして、ギリギリの所で宝玉を盗ませてください。

3姉妹の簡単な対策です。

長女レモン
・3姉妹をまとめるリーダー格、おっとりとした天然系のお姉さん
・カワイイ物には目が無い(子供、ぬいぐるみ、動物等)
・卑怯な事が大嫌いで、やられると劣化の如く怒り、誰にも止められなくなる

次女ライム
・3姉妹の特攻隊長、体力では一番で、殴り合いを最も得意とし、格闘のスタイルはボクシング
・情にもろく、人情話、感動話を聞かされると、聞き入り、涙をボロボロ流す
・ミカンと協力する事で、激怒したレモンを止める事が出来る

三女ミカン
・3姉妹のブレーン、少し離れた所からパソコンを使い、2人に指示を出す。
・食い意地が張っていて、美味しそうな食べ物を見ると、見境が無くなる。
・予想外のハプニングに弱く、頭を抱えて怯える事もある。



こんな愉快な3姉妹ですが、彼女達とは別に、本職の女泥棒も大場宅を狙っています。皆様がプレイングで書いて欲しいのは、彼女達の中で誰と戦うか、そして女泥棒に気付くかどうかを書いて下さい。気付いた人はどうやって、撃退するかをお願いします。因みに彼女は普通の人間で、特別な能力は一切ありません。皆様のプレイングを期待して待っています。

参加者
ソルファ(cyhp6009) ムービースター 男 19歳 気まぐれな助っ人
李 白月(cnum4379) ムービースター 男 20歳 半人狼
香玖耶・アリシエート(cndp1220) ムービースター 女 25歳 トラブル・バスター
真山 壱(cdye1764) ムービーファン 男 30歳 手品師 兼 怪盗
アレグラ(cfep2696) ムービースター 女 6歳 地球侵略軍幹部
<ノベル>

 ポカポカと暖かい日差しの中、ソルファは1人ベンチに座り、右のポケットから人参を取り出し、丸かじりすると、左のポケットに手を突っ込む。
「いけね。水、買い忘れた……」
 ミネラルウォーターが無いと知り、ソルファは立ち上がって、水飲み場に向かう。するとツナギを着て、大きな眼鏡を掛けた1匹の河童が、スパナを持って、修理している様子が見えた。
「これで良いと思うけど……」
 河童は不安そうに蛇口を捻ると。水がチョロチョロ出る。彼は安堵の表情を浮かべるが、後ろにソルファが居る事に気付くと、慌てて、水飲み場に手を差し出す。
「使うんですよね? どうぞ!」
 ソルファは河童に軽く頭を下げて、水を飲むと、彼は蛇口を閉め、河童に笑いかける。
「頑張ってんじゃん。時間あるなら、少し話さない? 私はソルファ。名前は?」
「初めまして! 『川の水道屋』のエイムと言います。僕は大丈夫です!」
 緊張気味のエイムに、ソルファは軽く笑いながら、歩き始め、エイムも彼の後を追う。



 2人は並んでベンチに座り、人参を食べていた。豪快に食べるソルファに対し、エイムは良く味わい、1本、食べ終えると、ソルファに深々と頭を下げる。
「美味しかったです。本当にありがとうございました」
「止せよ。人参1本ぐらいで、そんな……」
 ソルファは頬を染め、顔を背けると、エイムのポケットから、1枚の写真が落ちているのが見え、拾う。
「何これ?」
 写真を見ると、多くの河童達が、光り輝く宝玉を崇めていた。エイムは大切そうに、ソルファから写真を受け取って、抱きしめた。
「これは河童一族の宝物です。仕事が忙しく、今は理解ある人に、預かってもらっていますが……」
「何? 愚痴でも、悩みでも聞くよ」
 ソルファに言われ、エイムは、宝玉が3姉妹に狙われている事を話す。
「あれを失ったら、皆が困ります。人間で言うと太陽を無くす様な物です」
 話していく内にエイムの目には涙が溜まり、ポロポロと零れ落ちる。ソルファは彼の肩を掴み、顔を上げさせ、自分の顔を見させる。
「それ今、どこにある?」
 ソルファの熱い眼差しに、圧倒されながらも、エイムは大場の事を話し出す。種族間を越え、友情が芽生えた。



 その夜、大場はリビングで植村が用意してくれた、3人のムービースターと向かい合っていた。カンフースーツを着た青年、Tシャツにジーンズのラフスタイルの女性、燕尾服にガスマスクを付けた少女と、バラエティ豊かな顔ぶれに、彼の心は高鳴った。
「私は大場、今回の依頼主です。まず君達の名前を教えてくれ」
 大場は皆に軽く頭を下げると、カンフースーツの青年が一歩、前に出る。
「李白月だ。まぁ仕事はキッチリとやるよ」
 白月の自己紹介が終わると、女性と少女が前に出て来て、それぞれ自己紹介をする。
「香玖耶・アリシエートよ。粋な事を考えますね。あなたの様な人、嫌いじゃないです」
「アレグラだ! よろしく、たのむぞ!」
 優しく微笑む香玖耶と、元気一杯に話すアレグラに期待をし、大場は指を鳴らし、ケースに保管された宝玉を召使いに持ってこさせた。
「植村さんから、聞いているとは思うが、今回の依頼は、これを3姉妹に上手く盗ませる事だ。なるべく抵抗した振りをして、最後には盗ませて欲しいって、聞いてる?」
 丁寧に説明する大場に構わず、アレグラはケースに顔を引っ付け、宝玉を見続ける。
「スゴイ、キレイ……きめた! アレグラまもる!」
 決意した様に叫ぶと、アレグラはケースから顔を離し、テーブルの上に立って、話し出す。
「キレイな石、アレグラの手でドロボーから、まもる!」
 堂々と言うアレグラに、一同は呆然としていたが、大場は頭を振り、少女に話しかけようとするが、香玖耶に肩を軽く叩かれる。
「まぁ、良いじゃないですか。子供の純粋な気持ちを汚すのも無粋ですよ」
「まぁ、フォローするから安心してくれ」
 香玖耶と白月に言われ、大場は苦笑いを浮かべながら、アレグラをテーブルから下ろす。すると少女のポケットから1枚の紙が落ち、彼は拾って見る。
「これは……」
 紙を見た瞬間、大場の表情は固まり、ソファーに力無く腰掛けた。白月が彼の手にある紙を見ると、黒地に赤い字で『Joker』と書かれていて、裏面を見ると、文章が書かれていた。
『今宵、宝玉を貰いに参上します。そして愚か者に鉄槌を食らわします。怪盗Joker』
 Jokerの予告状を見て、白月と香玖耶の顔にも緊張の色が走り、彼女はアレグラに詳しい事を聞き出す。
「ねぇアレグラ、これは……」
「おお! そのキレイな紙は知らないおっちゃんから『渡してくれ』って言われた。すっかり、わすれてた!」
 元気一杯に笑い飛ばしながら言うアレグラを、香玖耶は呆れ気味に見つめ、大場の元に行き、彼を立たせる。
「しっかりして! 私達も守りますけど、この場合は……」
「大丈夫だ。このケースは飾りでは無い!」
 大場は宝玉の傍により、ケースを力強く叩く。
「これは認識されている人物以外が触れると、即、警察に繋がるシステムだ。今朝も管理会社にメンテナンスをしてもらった、だから君達は……」
「分かってますよ。Jokerを見付けたら、ぶっ倒しますし、3姉妹には盗ませます。ちょっと仕事は増えましたが、やってやります」
 不安そうに言う大場を安心させようと、白月は軽い口調で笑いながら話し、香玖耶とアレグラも彼に笑いかける。
「元々、私達は警備で来ましたから、出来る限りの事はします」
「あんしんしろ! アレグラがみんな、やっつける!」
 堂々と言う2人に、大場も苦笑いを浮かべ、2人の手を掴みながら、何度も頷き、感謝の気持ちを表す。
(『愚か者に鉄槌』? まさかね……)
 その様子を窓の外から見ていた、女泥棒はJokerの言った事を不安に感じつつも、お宝を得る為、屋敷の奥に消えて行った。



 3姉妹が予告した時間から1時間前、白月は宝玉が置いてある大広間、香玖耶は庭、アレグラは裏庭に付き、彼女達とJokerを待つ。
「えっと大場さんの情報だと……」
 香玖耶は彼から手渡されたメモを見る。三女ミカンの事が事細かに書かれていて、メモをポケットにしまうと、彼女は辺りを見回し、ミカンが隠れられそうな所を探す。
「この何も無い、広い庭で隠れる事が出来る所と言えば、あそこね!」
 指差した先には、大きな木があり、緑の葉が生い茂っていて、隠れるには絶好のポジションだった。
「多分ここに……居た!」
 大場から渡された、人間の体温に反応するスコープを付けると、その中に、人影があり、パソコンを操作している様子が映し出されていた。
「作戦開始!」
 香玖耶はスコープを外すと、足元に置いてある箱を開ける。中には銀幕市で人気のスイーツ『ゴージャスパフェ』が入っていて、丁寧に持ち上げ、グラスに釣り糸を付け、木に向かう。
「本当に美味しそう……嫌々、ダメダメ!」
 生唾を飲み込んで、香玖耶は、ミカンに気付かれない様、木に登り、頂点に着くと、パフェを垂らす。



 木の中でミカンは、パソコンを操作して、大場家の警備システムを無力化していた。ある程度、終えると、彼女はパソコンを閉じ、溜息を1つ吐く。
「お腹空いた……」
 腹の虫が鳴く音を手で押さえ、ミカンはガックリと肩を落とした。
「晩御飯あれじゃ足りないって言ったのに……レモンお姉ちゃんのバカ! わたし、太ってなんかいないのに……ん?」
 夕食を減らしたレモンに愚痴を言っていると、目の前に雑誌で見た事がある、有名なパフェが現れる。一瞬、呆けたが、ミカンは目を輝かせ、パソコンを放り投げて体事、パフェに突っ込む。
「わ! え? ワァ――!」
 それと同時に、驚かせようと香玖耶が上から現われた為、2人は激突し、木から落ち、揃って、地面に大の字になって倒れ込んだ。
「大人しくしていて。それなら手荒な真似はしないから……」
「分かったから『ゴージャスパフェ』食べさせて……」
 ミカンはパフェを手放なさず、香玖耶は呆れながらも頷き、彼女の手にティースプーンを手渡す。ミカンがパフェにスプーンをさすと同時に、2人は仲良く、気を失った。



 宝玉の前で白月は1人、退屈そうに座っていた。大広間には、彼1人で、何度もあくびをしながら、3姉妹を待つ。
「全く暇だね……」
 白月が腕を大きく伸ばし、あくびをすると、目の前の扉が勢い良く開かれ、勝ち気な表情を浮かべた少女が現れた。
「また堂々としているね。確か次女のライムさんだろ、俺は李白月だ」
「丁寧な自己紹介、どうも。でも、あたしたち親睦を深める為に、来ている訳じゃないよね?」
 そう言うとライムは柔軟体操を始める。白月も立ち上がり、指の関節を鳴らし、彼女を見る。
「それもそうだ。開始の合図は?」
 白月に聞かれ、ライムはポケットから100円玉を取り出す。
「これが地面に落ちたらスタートだ!」
 威勢良く叫ぶと、ライムは指で100円玉を弾き飛ばす。2人の視線は1枚の硬貨に向けられ、大広間に小さな金属音が響くと、2人は互いに、まっすぐ突っ込み、屋敷内に爆発音が響いた。



 裏庭ではピンク色の霧が立ち込めていて、その場に居た警備員達は、小さく寝息を立てていたが、アレグラだけは、入って来たレモンを睨んでいた。
「あらあら。あなたはミカンちゃん特製の眠り薬が効かなかったんですか?」
「おまえ、ちょうじょのレモンだな? アレグラ、ボスやっつける!」
 困った様に笑うレモンとは対照的に、アレグラは敵意をむき出しにして、今にも襲い掛かろうとしていた。
「手荒な真似はしたくありませんが、仕方ないですね」
 レモンは表情を引き締めると、少女に対して構える。
「アレグラ、ボスやっつける!」
 戦闘態勢に入ったレモンを見て、アレグラは両手を伸ばし、彼女を襲った。眠っていた警備員達が宙を舞い、辺りに地鳴りが響いていた。



 空になったグラスを恨めしそうに見つめながら、ミカンは、その場であぐらをかき。香玖耶は痛そうに顔を擦りながら、立ち上がる。
「わたしの事、拘束しなくて良いの?」
 不機嫌そうに聞くミカンに、香玖耶は軽く微笑む。
「あなたは、そんな人じゃないわ。必要無い事をやっても無意味なだけよ」
「本当に良いの? わたし、怪盗だよ? ちょ……」
 話の途中で香玖耶は居なくなり、ミカンは呆気に取られたが、すぐに彼女の後を追った。本当の意味で自分を信じてもらう為に。



 アレグラとレモンが戦っている裏庭は、少女の手によって荒野と化していた。2人とも、荒い息遣いでお互いを見ていたが、レモンの表情は暗い物だった。
「お願いです。あなたの動きは見切りましたし、弱点も分かりました。ここは退いて下さい」
「ダメだ! アレグラ、おまえ、ゆるさない!」
 レモンの交渉を聞かず、アレグラは混信の力を込めて、腕を伸ばす。それに対し、レモンはまっすぐ突っ込んで、腕をかわす。
「あなたの弱点、それは、その長い手です! 確かに強力な武器にもなりますが……」
 アレグラの懐に潜り込むと、無防備な顔面にレモンのアッパーカットが炸裂し、ガスマスクを宙に飛ばし、少女自身も後方に吹っ飛ぶ。
「接近戦では邪魔なだけです。どうか降伏を……ん?」
 アレグラの顔を見ると、レモンは言葉を失った。ガスマスクの下に隠れていた素顔は、大きな瞳に小ぶりの鼻と唇。眉毛は無いが、外人の女の子らしい、愛くるしい顔を見ると、レモンは顔を真っ赤にして、少女を抱きしめた。
「らにをするだ? はらへ――!」
「や〜ん! アレグラちゃん、チョーカワイ――! これなら、もっと早く顔見せてよね〜!」
 レモンのテンションは上がりきり、満面の笑みでアレグラに頬ずりをしたり、額にキスをしたりして、自分の気持ちを伝える。
「もう……アレグラちゃんのせいで、2人とも泥まみれだよ!」
 子供を叱る様な口調で、レモンは、自分の服を見せた。土ぼこりで、彼女の服は泥で汚れていた。
「だから、お姉ちゃんと一緒にお風呂入ろうね〜! キレイキレイちまちょうね〜」
「アレグラ、おしえてもらった! あんないする!」
 アレグラを抱きかかえたまま、レモンはホクホク顔で、風呂場へと向かった。眠り薬の効果が切れ、ピクピクと痙攣している警備員達は、2人に手を振ると、気絶した。



 大広間では2人の戦士が1歩も譲らない勝負をしていた。ライムの拳は寸前の所でかわされ、白月の蹴りはガードされ、パワー・スピード・スタミナ、全てで2人は互角の勝負を繰り広げていた。拳と蹴りが交わり、爆発音が部屋に響くと、2人は距離を取り、お互いに呼吸を整える。
「はぁ……あんたバカにしてんの?」
 荒い呼吸で、ライムは白月を睨み付け、彼はハンカチで額を拭きながら、彼女の応対をする。
「何の事だよ?」
「あんた、実力の半分も出してないだろ? バカにするなよ!」
 手加減された事を見抜き、ライムは怒りの表情を浮かべながら、その場でステップを踏み、ファイティングポーズを取りなおす。
「見てろよ……絶対、本気を出させてやる!」
 感情のままにライムは突っ込んで行き、白月も構えようとするが、後ろで光る物を見付けると、慌てて解き、彼女に突っ込む。
「危ない! 伏せろ!」
 白月がライムを抱いて伏せると、光は暗闇から現れ、刀が地面に突き刺さる。舌打ちをすると、トカゲの尻尾が生えた少年、ソルファは刀を抜き、ライムに突き付けた。
「次は外さないよ。覚悟を決めな」
「待て!」
 白月はソルファの前に立ち、手を大の字に広げる。
「お前がJokerか?」
「何を言ってるか分からないけどさ、邪魔するなら一緒に潰すだけだ!」
 ソルファは乱暴に刀を振り下ろし、間一髪の所で白月は避ける。髪の毛がパラパラと飛び、彼の顔に緊張の色が走ると、お互い間合いを取って構えなおす。
「心意気を邪魔する様な下種を……俺は絶対に許さねぇ!」
 叫びと共に、白月の腕と足は獣に変わり、血走った目で彼を睨んだ。ソルファも刀を構えなおし、2人はまっすぐ突っ込んだ。刀と爪がぶつかり合う音が部屋中に響く。
「あたしと戦った時と全然、違う……」
 白月の本気に、ライムは圧倒されていた。その間も、2人の戦いは続き、互いの頬に切り傷が付くと、2人は一旦、離れて呼吸を整える。
「やるな……でも俺だって負ける訳には行かないんだよ!」
「ダチの宝物、返してもらう!」
 2人が再び突っ込もうとした時、1枚のカードが地面に刺さり、双方の動きを止めた。全員がカードの飛んだ方を見ると、紫色の派手なスーツに、シルクハット、顔の上半分を覆う白い仮面と下半分を真っ黒な覆面で覆っている青年が、シャンデリアの上に乗っていた。
「お前が怪盗Jokerか?」
 震えながら指差す白月に、Jokerは含み笑いを浮かべながら、シャンデリアから飛び降り、一同の前に立つ。
「その通り。この宝は私が頂きます。……と言いたい所ですが、今回のケースで横槍を入れるのは非常に美しくありません」
 Jokerは手を大きく広げ、悲しそうに首を振ると、ライムの方を向く。
「宝とは、あるべき所にあって、初めて輝く物……貴方の心意気は素晴らしいですよ。お嬢さん」
「え? ちょっと待って……」
 話している途中で、ソルファは抜けた声を出し、Jokerに手で謝りながら、ライムの元に行く。
「何あんた、河童達の為に宝玉、取り返そうとしてるの?」
 ソルファの質問に、ライムは黙って頷く。彼は少し考えた後、ポケットから携帯を取り出し、一同に手で謝りながら電話を掛ける。
「ああ、もしもしエイム? 今、良い?」
「どうしたんですかソルファさん?」
 昼間に番号を交換したエイムに電話をして、ソルファは、彼に事細かに現状を伝えた。
「そうなんですか? ゴメンなさい! 僕の早とちりで、そんな……」
「いや、こっちが勝手にした事だから……」
「とにかくソルファさんは、これ以上、僕達の為に傷付かないで下さい! ソルファさんに何かあったら、僕、辛いです……」
 そう言うと、エイムはさめざめと泣き出し、電話口でソルファは、どうして良いか分からずオロオロとうろたえだす。
「わ、分かったから。無茶はしないって約束するから、だから泣くな。もう切るぞ!」
 半ば強引に電話を切り、携帯をポケットにしまうと、ソルファは真剣な表情を浮かべ、ライムに頭を下げた。
「ゴメン! 自分の事ばかりで……」
「良いって、そんな」
 深々と頭を下げるソルファに、ライムは笑いながら、彼の肩を叩き、顔を上げさせる。
「あたしは良いよ。こんな仕事やってたら、お約束みたいな物だし、それよりも……」
 悪戯めいた笑みを浮かべ、ライムは親指で白月を指差す。ソルファは慌てて彼に頭を下げようとするが、白月は口元に軽やかな笑みを浮かべ、手の平を差し出す。
「分かってくれれば、それで良いよ。でも勝負は別だぜ」
「美しい友情が生まれたな」
 その様子を見ていたJokerは拍手をしながら、一同の前に現われ、ティーポットと人数分のカップを手から出す。
「少し一息入れよう。紅茶は嫌いですか?」
 全員、黙って首を横に振ると、彼は皆の手にカップを持たせ、紅茶を注ぐ。
「これは私の好意だ。信じるかは君達次第だがな」
 そう言い、Jokerは自分の紅茶を飲み出す。美味しそうに飲む、彼を見て、一同も恐る恐る口を近付け、1口飲む。その瞬間、口の中に甘い香りが広がり、3人は幸せそうな表情を浮かべ、その場に腰を下ろす。穏やかな時間が生まれた瞬間だった。



 走り続ける香玖耶の背中を、ミカンは息が上がりながらも、追い続けていた。彼女の苦しそうな息遣いを背中越しに感じると、香玖耶は止まり、ミカンの方を向く。
「どうして追いかけて来るの?」
 息を切らせながら、香玖耶は少し不機嫌そうに聞く。ミカンは少し怯えながらも、自分の意見を話し出す。
「わたしは身柄を拘束されている身だよ? 離れる訳にはいかないよ」
「だから、あなたはそんな……」
「それに!」
 話を止めようとする香玖耶に、ミカンは被せる様に叫び、真剣な表情で彼女を見る。
「わたし達の他にも、宝玉を狙っている人が居るんでしょ?」
 香玖耶は目を見開いて驚き、ミカンの顔色を気にしながら、恐る恐る話し始める。
「知っていたの……」
「わたし情報収集がメインだよ。それぐらいは分かるよ。だから、わたしも一緒に戦う!」
 ミカンの真剣な表情と言葉に、香玖耶は苦笑いを浮かべると、彼女に手を差し出す。
「分かったわ。一緒に戦いましょう。私は香玖耶・アリシエート。改めて、よろしく」
「ミカンです。よろしく香玖耶さん!」
 2人は固い握手を交わすと、揃って宝玉が置いてある大広間へ向かう。新しいパートナーと共に。



 大広間では、紅茶を飲み終えた一同が、それぞれ、リラックスしていたが、Jokerだけは、真剣な顔で、しきりに時計を見続けていた。
(もう、そろそろだな……)
 Jokerが上を見ると、小さな金属の玉が落ちて来る。何かと思い、一同が近づいたと同時に、金属の玉は2つに割れ、白いガスが漏れ始める。
「全員、下がって!」
 怪盗の呼び声で、全員、玉から離れる。Jokerは玉を取ると、手の中に握り締める。再び開くと、跡形も無く消えていて、一同から拍手を貰う。
「先程も言いましたが、横槍を入れるのは美しくありません。我々は華麗でなければ無意味です。そうは思いませんか? お嬢さん?」
 彼の呼びかけに、奥の方から黒尽くめの女性が舌打ちをしながら、一同の前に現れた。ライムは驚きを隠せず、ソルファは厳しい目で、白月は冷たい目で見ていた。
「いつから気付いた?」
「そんな事はどうでも良いでしょう。これから、貴方は捕まるんですから。怖くないから、安心して……」
「あれ? その人、誰ですか?」
 Jokerが女泥棒と話している途中に、体から湯気を出したレモンが、寝かかっているアレグラを抱え、一同の輪に加わって、ライムに話しかける。
「ライムちゃん、見て見て。この子アレグラちゃんって言うの。カワイイでしょ」
「レーねぇ、今、それ所じゃ……」
 アレグラを抱きかかえながら、嬉しそうに言うレモンを、ライムは宥めようとするが、彼女は聞く耳を持たず、眠りかかっている少女を振って喜んでいた。
「今だ!」
 その時、後ろから女泥棒がレモンの首を片手で締め上げ、もう片方の手でナイフを首元に付きつけ、一同に歪んだ笑みを見せる。
「どうだ! この女とガキ、無事に帰して欲しかったら、私を見逃して、その宝玉もよこせ!」
 勝ち誇った表情を浮かべながら、女泥棒は叫んだ。それにJokerは嘆かわしそうにして、白月はソルファの方を見て、互いに頷いた。
「何してんだよ? さっさと宝玉を……あぅ!」
 女泥棒が叫んだと同時に、彼女のみぞおちを痛みが襲う。レモンは女泥棒を冷たい目で見つめながら、肘で思い切り突き、腕から逃れる。
「今です……」
 レモンが離れると、ソルファは刀を突き立て、白月は爪を地面に食い込ませ、彼女を睨んだ。
「な……何をするつもりなんだよ……」
「こうするんだよ!」
 不安げに聞く女泥棒に対し、2人は地面をえぐり、砂利が物凄いスピードで彼女を襲い、逃げる間も無く、砂利の弾丸が女泥棒の体を襲った。
「ぎゃああああああ!」
 悲痛な叫びと共に、女泥棒の体には無数のアザが出来上がり、顔を押さえながら、転げ回った。レモンは冷たい目で彼女を見ながら、完全に眠ったアレグラを床に寝かせ、ガスマスクを付けた。
「眠った子を起こしてはいけないな。後は私に任せなさい」
 Jokerは、ゆっくりと女泥棒に近付ぉ、首元に軽く手刀を落とすと、彼女の目は虚ろになり、そのまま夢の世界に旅立つ。
「ゆっくりお眠りなさい。さて……」
 女泥棒が落ち着いたのを見届けると、Jokerは宝玉の方を向き、軽く口笛を吹くと、鋭い眼光を送る。
「では予告通り、頂かせてもらいます」
「待って!」
 Jokerが進もうとした時、勢い良くドアが開かれる。全員がドアの方を見ると、香玖耶とミカンが荒い息遣いで立っていた。
「お姉ちゃん達、大丈夫?」
「あたし達は平気だけど、その……」
 心配そうに聞くミカンに、ライムは恐る恐るJokerを指差す。彼は2人に対し、穏やかに微笑み、軽く頭を下げる。
「その人は下種な輩を倒すのに協力してくれた人です。でも……」
 レモンは厳しい表情を浮かべながら、ライムとミカンを呼び寄せ、3人揃うと、彼女が中心となり、Jokerを睨む。
「黙って、見過ごす訳には行きません。勝負です」
「加勢するぜ」
 3姉妹の中にソルファが加わり、4人は並んでJokerに向かって、戦闘態勢を取る。
「行くぞ!」
 ソルファの掛け声と共に、4人は一斉にJoker目がけて突っ込む。ソルファの刀が彼の胸を貫くと、2人は、そのまま後方に吹っ飛び、怪盗は大の字になって倒れた。
「その、えっと……」
 刀が刺さったJokerを見て、ミカンは不安そうにソルファを見る。
「急所は外してあるよ。それよりも……」
 ソルファは一旦Jokerから離れ、眠る様に穏やかな表情を浮かべている彼を見ると、3姉妹を呼び寄せる。
「あれは手品が得意だからな。念の為、4人で囲んで一気に押え付けるぞ!」
 彼の提案に全員が頷き、素早く四方からJokerを囲み、一斉に飛び掛って、押さえ込む。
「捕まえたぞ! って……何だこりゃ?」
 ソルファがJokerの体を持ち上げると、そこにあったのは顔にへのへのもへ字が書かれた人形だった。全員が、一斉に宝玉の方を見ると、既に中身は無かった。
「では確かに頂いていく」
 声の方向に一同が振り向くと、宝玉を持ったJokerが、片手に女泥棒を抱え、背中にアレグラをおぶって、窓から外に出ようとしている。
「アレグラちゃんをどうするつもりなのよ!」
「この子は私が送って行く、こちらのお嬢さんも警察に引き渡しておこう。では、さらばだ諸君!」
 レモンの怒声にも、Jokerは紳士的に対応し、2人を連れ、窓から飛び出た。一同は慌てて、向かおうとするが、すぐにハンググライダーが出て、飛び立った。
「人騒がせな怪盗ね……」
 香玖耶は溜息を1つ吐くと、空になったケースを軽く撫でる。
「大場さんが言う程、期待出来なかったね、このケース……ん?」
 ケースの下からモーター音が聞こえ、一同はケースに寄った。底の部分が開くと、先程の物とは、輝きが違う宝玉が現れ、一同を照らす。
「これが本物の宝玉か?」
「前言撤回。大場さん粋な真似するね」
 白月と香玖耶は、大場がやったと思われる仕掛けに喜び、その場でハイタッチを決めるが、それを見つめる8っつの目に気付き、慌てて振り返る。
「改めて勝負だ。どっちが勝っても文句は無しだぜ」
 ソルファの声に2人は頷き、それぞれ身構えた。守る者と奪おうとする者、それぞれ緊張の色が走り、どちらが先に仕掛けるか、お互いに待っていた。
「行くぞ!」
「ワ――!」
 ソルファの掛け声と共に、4人は宝玉に向かって、まっすぐ突っ込んでいく。叫び声と行動に驚いた、白月と香玖耶は、思わず後退する。
「今だ!」
 ソルファは自分の尻尾を乱暴に引きちぎり、2人に向かって投げ付ける。トカゲの尻尾に潰された2人の意識は遠い所に行き、その隙に一同は、ケースを外し、宝玉をレモンが抱えると一目散に玄関へ向かう。
「ごきげんよう〜!」
 レモンが慌て気味の声で言うと、3姉妹はソルファを残し、出て行った。残ったソルファは、2人の上に乗っている尻尾をどかすと、正面に正座をする。
「どうやら上手く行ったみたいだな」
 そこに大場が現れ、倒れている2人を起こし、笑顔で活躍を誉め出す。
「良い仕事をしてくれた、彼女達も満足してくれたと思うよ」
「ここのご主人?」
 話している途中でソルファが割って入り、大場は頷くだけの返事をする。
「何か色々とゴメン……」
「いや構わないよ。実は……」
 申し訳なさそうにしているソルファに、大場は今回の事を1から話す。全てを聞くとソルファの顔色は明るい物になり、大場の肩を肘で軽く突いた。
「中々、粋な事、思い付くじゃん」
「そうよね。このトリックも見事だし……」
 香玖耶は頷きながら、ケースを叩いて、大場を見るが、彼はキョトンとした顔を浮かべ、手を大きく交差させる。香玖耶が改めてケースを見ると、底の方に一枚の紙があり、手に取って見る。
『本物の宝玉は無事、彼女達の手に渡った様ですね、縁があれば、また会いましょう 怪盗Joker』
 Jokerからの置手紙を読むと、4人は同時に笑い出し、穏やかな空気を共有していた。ここに新しい友情が芽生え、皆、それぞれを労い、いつまでも笑い続けていた。



 高層ビルの上を伝いながら、3姉妹は宝玉を持って、話し合っていた。
「良い人達でしたね……」
 少し寂しげなレモンの言葉に、2人も頷き、ライムが彼女の隣に出る。
「また皆に会いたくない、あたし、今度は全力で白月に相手してもらいたい!」
「わたしは香玖耶さんと一緒に食べ歩きしたい……」
 自分の気持ちを伝えるライムの隣に、ミカンも現れ、自分の気持ちを伝える
「分かっているわよ。私だって、もっとアレグラちゃんと遊びたいし……」
 レモンの言葉を聞くと、2人は悪戯めいた笑みを浮かべ、嬉しそうに話す。
「そうだよね! Jokerさんにもリベンジしたいし!」
「トカゲの人とも戦いたいからね!」
「なら決まりね」
 ミカンとライムの意見を聞くと、レモンは高層ビルから飛び降り、2人もそれに続く。
「これからの予定を言います。河童さん達に宝玉を返し、ぐっすり寝た後……」
「対策課で皆の事を聞いて! 皆と仲良しになる!」
 レモンの質問に2人は思った通りの返事をして、彼女を笑顔にさせた。
「そう言う事! あと私達の為に、色々としてくれた大場さんにもお礼を言わなきゃね」
「ハ〜イ!」
 2人は元気一杯の返事をして、レモンと共に夜の闇に消えた。夜空には星が煌めいていたが、3人の笑顔は、星空よりも美しく、燦然と輝いていた。

クリエイターコメント皆様、3姉妹の為に、色々と協力してくれて、ありがとうございます。彼女達も皆様の心意気を嬉しく思っています。

皆様のお陰で3姉妹の仕事は、最高の物になりました。次も頑張ります。
公開日時2008-06-12(木) 19:50
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